大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和56年(ワ)520号 判決

原告

季在雲

ほか一名

被告

林久雄

主文

一  反訴被告は反訴原告季在雲に対し金三〇万四四八〇円反訴原告季順連に対し金一二四万四四六五円およびこれに対する昭和五六年四月一四日から、完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その二を反訴被告、その余を反訴原告らの各負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

1  反訴被告は反訴原告季在雲に対し金四六万九〇〇〇円、反訴原告季順連に対し金三二二万四〇〇〇円および各これに対する昭和五六年四月一四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費証は反訴原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  本件事故の発生

1 発生日時 昭昭五二年六月二五日午後五時一〇分ころ

2 発生場所 京都市下京区七条通壬生川東入ル路上

3 態様 反訴被告運転の普通乗用自動車(以下加害車という)が反訴原告季在雲運転、同季順連同乗の普通乗用自動車に追突したもの

(二)  反訴被告の責任

反訴被告は加害車の保有者でその運行供用中本件事故を惹起したものであるから、自動車損害賠償保障法三条により本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

(三)  反訴原告らの受傷内容および治療経過ならびに後遺障害

1 受傷内容

反訴原告両名 頸椎捻挫

2 治療経過

反訴原告両名

(1) 大和病院通院 昭和五二年六月二五日から同年一〇月一三日まで

(2) 九条病院通院 同年一〇月一四日から同五五年八月六日まで

(3) 京都第一赤十字病院通院 同五五年八月七日から同年八月二八日まで(但し反訴原告季順連は同月二七日まで)

3 後遺障害

反訴原告季在雲

頭部左側、左肩疼痛、倦怠感等

昭和五五年八月二七日症状固定

後遺障害等級一四級

反訴原告季順連

頭痛、項頸部痛、背腰痛等

昭和五五年八月二七日症状固定

後遺障害等級一四級

(四)  損害

(イ) 反訴原告季在雲の損害

1 マツサージ代 三六万六〇〇〇円

昭和五四年五月分まで受領済み

同年六月二六日から同五五年四月二五日まで一ケ月三万円宛一〇カ月分 三〇万円

同五五年四月二六日から同年六月二六日まで一ケ月三万三〇〇〇円宛二ケ月分 六万六〇〇〇円

2 通院交通費 四一万八〇〇〇円

バス乗換え往復四四〇円宛一ケ月二五日分三八カ月間

3 休業損害 六八四万円

電気工として一カ月一八万円以上の収入があつた。

三八カ月分。

4 逸失利益 二一万六〇〇〇円

労働能力喪失率五% 喪失期間二年

5 慰藉料 一八一万円

通院による慰藉料 一二五万円

後遺障害による慰藉料 五六万円

(ロ) 反訴原告季順連の損害

1 マツサージ代 三九万六〇〇〇円

昭和五四年五月分まで受領済み

同年六月二五日から同五五年六月二五日まで一ケ月三万三〇〇〇円宛一二ケ月分

2 通院交通費 四一万八〇〇〇円

バス乗換え往復四四〇円宛一ケ月二五日分三八カ月間

3 休業損害 二八五万円

会社事務員として一ケ月七万五〇〇〇円以上の収入があつた。

三八カ月分

4 逸失利益 九万円

労働能力喪失率五% 喪失期間二年

5 慰藉料 一八一万円

通院による慰藉料 一二五万円

後遺障害による慰藉料 五六万円

(五)  損害のてん補

反訴原告季在雲 四九七万一〇〇〇円

反訴原告季順連 二三四万円

(六)  結論

よつて反訴原告らは反訴被告に対し、前記(四)の損害から(五)のてん補を受けた金員を控除した残額(反訴原告季在雲につき四六七万九〇〇〇円、同季順連につき三二二万四〇〇〇円とこれに対する昭和五六年四月一四日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因の認否および反訴被告の主張

(一)  認否

請求原因(一)(二)の事実は認める。

同(三)のうち反訴原告らの後遺障害等級が一四級であることは認めるがその余の事実は知らない。

同(四)(五)のうち弁済の事実は認めるがその余の事実は否認する。

(二)  主張

1 反訴被告が反訴原告らに支払つた金額等は次のとおりである。

(1) 反訴原告李在雲

(イ) 治療費 一四八万八八七〇円

(ロ) マツサージ代 二五万八六〇〇円

(ハ) 休業損害、慰藉料 四九七万一〇〇〇円

(ニ) 自賠責保険金 五六万円

合計 七二七万八四七〇円

(2) 反訴原告李順連

(イ) 治療費 一三三万二二六〇円

(ロ) マツサージ代 二八万九二〇〇円

(ハ) 休業損害、慰藉料 二三四万円

(ニ) 自賠責保険金 五六万円

合計 四五二万一四六〇円

(3) 右のうちマツサージ代はその治療の必要も効果もなかつたから損害といえず、他の損害に充当されるべきである。

2 反訴原告らの後遺障害の症状固定時期は遅くとも昭和五四年七月三〇日であり、またその症状は誇張もしくは心因的要因に基づくものであり、本件事故との因果関係はない。

三  反訴被告の主張に対する反訴原告らの認否

反訴被告の主張のうち1の(1)、(2)の事実は認めるがその余は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因(一)(二)の事実は当事者間に争いがない。

右事実によれば反訴被告は反訴原告らが本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

二  成立に争いのない甲第一号証の一、二、第二ないし第七号証、乙第一、二号証および反訴原告本人両名尋問の結果によれば、反訴原告らの受傷内容、治療経過は概ね反訴原告らの主張のとおりであること(但し大和病院通院中一時島根県立中央病院へも通院して治療を受けた)、反訴原告李在雲は昭和五五年八月二八日京都第一赤十字病院において、自覚症状頸部痛、頭痛、肩関節痛、肩凝り、手のしびれ、腰痛、性的不能、他覚症状頸椎、左肩関節運動制限、握力低下、左手知覚鈍麻、頸、腰部圧痛の後遺障害があり同日その症状が固定したものと診断されたこと、反訴原告李順連も同月二七日同病院において、自覚症状腰部、頭部痛、他覚症状頸推運動制限、耳鳴、握力低下、大臀部上部圧痛、右上肢皮フ知覚不全マヒ等の後遺障害があり、同日その症状が固定したものと診断されたこと、しかしながら反訴原告李在雲は昭和五二年一〇月一二日に大和病院において症状固定状態であると診断され、またそのころ頸部の動きも良かつたがその後の診療において無理にせきをしたり、頸椎運動検査時に力んだり、抵抗したり検査のための採血を拒否するなどし、不定愁訴は多いものの検査による異常所見はあまり見られず、治療内容も温熱、マツサージが中心であつたこと、一方反訴原告李順連も昭和五二年八月三日の島根中央病院における診断においては頸部可動域正常であつたのであり、その後の診療においては反訴原告李在雲と同じく無理にせきをしたり、診察を拒否したり、握力を計ろうとしなかつたりし、不定愁訴は多いものの客観的異常はあまり見られず、治療内容も温熱とマツサージが中心であつたことの各事実を認めることができ、右認定に反する反訴原告本人両名尋問の結果は措信できず他にこれを左右するにたりる証拠はない。

三  損害

(一)  反訴原告李在雲の損害 六〇九万四〇八〇円

(1)  マツサージ代について

同原告が前示のとおり医師の治療を受けていた他にその主張のようなマツサージ治療を受ける必要があつたことを認めるにたりる証拠はないから右は相当な損害ということができない。

(2)  通院交通費 三一万六三六〇円

前掲の証拠によれば同原告の通院日数は七一九日であり、バス、タクシー、自家用車により通院したことが認められるところ、その症状等に照らしバス代(弁論の全趣旨により一回分四四〇円と認められる)相当額が相当な損害と認められるから、これによれば通院交通費は右金額となる。

719日×440円=31万6360円

(3)  休業損害 四二〇万円

反訴原告本人李在雲尋問の結果によると、本件事故当時同原告は電気工として勤務し一か月二〇万円程度の収入を得ていたところ、本件受傷後休業し勤務先も退職したが、昭和五六年三月ころから寮の管理人として稼働するようになつたことが認められる。

しかしながら前示のような同原告の受傷内容や治療経過等に照らすと本件事故の翌日から大和病院において症状固定状態と診断された昭和五二年一〇月までの四カ月間については全額本件事故に基づく休業損害と認められるものの、その後京都第一赤十字病院において症状が固定したものと診断された同五五年八月までの三四カ月間についてはその二分の一相当額のみを本件事故と相当因果関係ある休業損害と認めるのが相当である。

よつてその間の休業損害を算出すると左のとおりである。

20万円×(4カ月+1/2×34カ月)=420万円

(4)  将来の逸失利益 三二万七七二〇円

同原告の後遺障害の部位、程度等に照らすと同原告はその労働能力の五%を喪失したもので、このような状態は右後遺障害の症状が固定した時から少くとも三年間は継続するものと考えられる。

よつてホフマン式計算方法によりその間の逸失利益を算出すると左のとおりとなる。

20万円×12カ月×0.05×27310=32万7720円

(5)  慰藉料 一二五万円

同原告の受傷の内容、治療経過、後遺障害その他の諸事情を総合すると同原告の慰藉料としては一二五万円が相当である。

(二)  反訴原告李順連の損害 四四三万三六六五円

(1)  マツサージ代について

前示反訴原告李在雲について説示したところ同一の理由により右は相当な損害ということができない。

(2)  通院交通費 三一万〇六四〇円

前掲の証拠によれば同原告の通院日数は七〇六日であり、バス、タクシー、自家用車により通院したことが認められるところ、その症状等に照らしバス代(前同一回分四四〇円と認められる)相当額が相当な損害と認められるから、これによれば通院交通費は右金額となる

706日×440円=31万0640円

(3)  休業損害 二六六万五〇七四円

反訴原告本人李順連尋問の結果によると、同原告は本件事故直前にそれまで勤務していた勤務先を反訴原告李在雲との結婚のため退職し無職であつたこと、結婚後は再び新しい勤務先を捜して勤務する予定であつたこと、昭和五六年三月ころから夫の反訴原告李在雲とともに寮の管理人として稼働していることの各事実が認められる。

右事実によれば反訴原告李順連は本件事故当時現に稼働していたものではないけれども同原告も健康な一女性として少くとも女子労働者の平均収入程度の収入を得ることは可能であつたものというべきであり、前示のような受傷の内容や治療経過等に照らすと本件事故の翌日から昭和五二年一〇月までの四カ月間についてはその全額、その後京都第一赤十字病院において症状が固定したものと診断された同五五年八月までの三四カ月間についてはその二分の一相当額を本件事故と相当因果関係ある休業損害と認めるのが相当である。

よつて昭和五二年賃金センサスに従いその間の休業損害を算出すると左のとおりである。

(10万1900円×12カ月+30万0100円)/12カ月×(4カ月+1/2×34カ月)=266万5074円

(4)  将来の逸失利益 二〇万七九五一円

同原告の後遺障害の部位、程度等に照らすと同原告はその労働能力の五%を喪失したもので、このような状態は右後遺障害の症状が固定した時から少くとも三年間は継続するものと考えられる。

よつてホフマン式計算方法によりその間の逸失利益を算出すると左のとおりとなる。

(10万1900円×12カ月+30万円0100円)×0.05×27310=20万7951円

(5)  慰藉料 一二五万円

同原告の受傷の内容、治療経過、後遺障害その他の諸事情を総合すると同原告の慰藉料としては一二五万円が相当である。

四  損害のてん補

反訴被告から反訴原告李在雲が四九七万一〇〇〇円、同李順連が二三四万円の支払を受けたことは反訴原告らの自認するところであり、その他に反訴被告主張のとおりの損害のてん補を受けたことは当事者間に争いがない。

これらのうち反訴被告主張の治療費は反訴原告らが本訴において請求していない損害に対するものであるから除外し、その余の金額(反訴原告李在雲につき五七八万九六〇〇円、同李順連につき三一八万九二〇〇円、なおマツサージ代については前示のとおり必要な出費と認められないからこれに対する弁済金は他の損害に充当されるべきものである)を前項の各損害額から控除すると残額は反訴原告李在雲につき三〇万四四八〇円、同李順連につき一二四万四四六五円となる。

五  結論

以上の次第であるから、反訴原告らの本訴請求は反訴原告李在雲につき三〇万四四八〇円、同李順連につき一二四万四四六五円とこれに対する遅滞の後である昭和五六年四月一四日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当としてこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村田長生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例